住宅ローンの返済が難しくなったとき、任意売却という選択肢があります。競売を回避できる手段として注目されていますが、売却後も「残債」が残るケースは少なくありません。
この記事では、任意売却後の残債の仕組みや返済方法、支払いが難しいときの対処法、そしてその後の生活に与える影響もご紹介します。生活再建に向けた一歩を踏み出すための参考にしてみてください。

リスタート株式会社 代表取締役 峯元 竜
建設業個人事業主を7年経営後、不動産業を12年間経験。2017年の独立開業後、事業の負債を抱えながら働きつつ 副業を掛け持ちしていた経験をもとに、依頼者目線で課題解決に取り組む。
任意売却やリースバックを通じて、一人でも多くの依頼者が安心して新しい生活をスタートできるよう支援。また独自のネットワークを活かし、複雑な金融機関との交渉や、迅速な売却サポートにも強みを持つ。
任意売却で売却しても完済には至らないことが多い
任意売却は市場価格に近い金額で売却できる方法ですが、諸費用を差し引くと完済に届かないことがほとんどです。
例えば、残債2,000万円の家を1,900万円で売却した場合を考えてみましょう。この売却から差し引かれる諸費用には、主に以下のようなものがあります。
▼任意売却における一般的な諸費用内訳例
費用項目 | 目安・計算方法 |
仲介手数料 | (売買価格 × 3% + 6万円) + 消費税 (売買価格400万円超の場合) |
抵当権抹消費用(登録免許税) | 不動産1個につき1,000円 |
抵当権抹消費用(司法書士報酬) | 約2万円~5万円 |
売買契約書印紙代 | 契約金額に応じた額(例:1,000万円超5,000万円以下は軽減税率適用で1万円) |
(該当する場合)引越し費用 | 債権者との交渉次第で売却代金から捻出できる場合がある |
(該当する場合)未払い固定資産税・管理費等 | 売却代金から清算される場合がある |
仮に、仲介手数料(1,900万円の場合約69.3万円)、抵当権抹消費用(登録免許税と司法書士報酬合わせて仮に4万円)、印紙代(1万円)とすると、合計で約74.3万円となります。もし、これに加えて高額な未納の固定資産税や、売却のための修繕費用などがかさめば、諸経費の総額はさらに増加します。
諸経費が100万円に達する場合、返済に充てられるのは約1,800万円となり、残りの200万円は「任意売却後の残債」として支払いが続きます。諸経費は物件の状況や契約内容によって大きく変動するため、事前に専門家へ確認することが重要です。
また、売却価格は立地や物件の状態、市場動向などに左右され、想定より低くなる可能性もあります。
残債は自己破産や時効など法的手続きを経なければ消えません。放置すれば、信用情報に傷がつき、連帯保証人への請求や差し押さえのリスクも出てきます。そのため、売却前に費用と返済の見通しを確認し、早めに専門家へ相談することが大切です。
残債はどうやって返していくのか
任意売却後の残債は、一括返済だけでなく、分割返済や交渉による条件の見直しも可能です。金融機関やサービサー(債権回収会社)は、提出された家計資料をもとに、無理のない返済計画を検討します。早めに計画を立てることで、延滞や差し押さえのリスクを避けられます。
返済額は月5,000円からが一般的
返済額は、生活状況表や通帳などを参考に、月5,000~30,000円程度で設定されることが多く、無収入や生活保護受給中は支払い停止が認められる場合もあります。扶養人数や年金収入などを考慮して柔軟な調整が行われるのも特徴です。
債権者が一時的に極めて低額な支払いや事実上の支払い猶予に応じることもありますが、無収入や生活保護受給中で収入がない状態が続く場合は、自己破産などの法的整理による債務免除が根本的な解決策となることが多いです。
生活状況表をもとに返済額を決定
提出書類には、収入・支出・扶養人数などを正確に記入し、必要に応じて通帳コピーや家計簿などを添付します。この「生活状況表」または「生活収支報告書」は、債権者が債務者の返済能力を判断するための主要な資料であり、正直かつ詳細な情報提供が不可欠です。
事前に給与明細、預金通帳の写し、公共料金の領収書など、収支を証明する書類を整理・準備しておくとよいでしょう。正確で信頼性のある資料を準備すれば、交渉がスムーズに進むでしょう。
一括返済を求められることはある?
債権者、特にサービサーによっては当初、残債の一括返済を求めてくることもありますが、これは多くの場合、交渉の出発点です。臆することなく交渉の機会と捉え、資産状況や収入見通しを具体的に説明し、給与明細や預金残高など、返済能力を裏付ける資料を提示すれば、分割に応じてもらえることがあります。
債権はサービサー(債権回収会社)に移ることも
住宅ローンの残債が回収困難と判断されると、銀行や保証会社は、その債権を「サービサー」と呼ばれる債権回収会社に譲渡することがあります。譲渡後は通知書に記載された連絡先へ連絡し、今後の支払い方法や手続き内容を確認しましょう。
債権譲渡後は交渉次第で減額の可能性も
サービサーは、債権を大幅に低い価格で買い取っているため、一括払いを条件に残債を減額してもらえる可能性があります。
このような交渉では、支払い条件や期日を記した「和解契約書」の作成が不可欠です。事前に、過去の減額実績を確認しておくことで、交渉の進め方の参考になるでしょう。実例や条件の確認をもとに、冷静に交渉を進めることがポイントです。
▼サービサーとの和解契約書における主要項目
項目 | 重要性・詳細 |
当事者の明確な特定(債務者、債権者たるサービサー) | 契約の主体を明確にする |
対象となる元々の債務の特定 | どの債務に関する和解であるかを特定する |
和解金額 | 実際に支払う金額を明記する |
支払条件(一括払い/分割払い、支払期日、支払方法) | 支払いの具体的な方法と期限を定める |
残債務免除条項(清算条項) | 和解金額の支払いをもって、元々の債務の残額全額が免除され、今後一切の請求を行わない旨を明記する。これが最も重要な条項の一つ。 |
和解条件不履行の場合の措置(例:期限の利益喪失) | 和解契約に基づく支払いが遅れた場合の取り決め(通常、残債務全額の一括請求が可能となるなど) |
事前に、過去の減額実績を確認しておくことで、交渉の進め方の参考になるでしょう。実例や条件の確認をもとに、冷静に交渉を進めることがポイントです。和解契約書に署名する前には、弁護士などの専門家による確認を受けることをおすすめします。
減額交渉の際の注意点
交渉を始める前には、弁護士や司法書士などの専門家に相談し、法的リスクを把握しておきましょう。和解契約書には、「一括払い」「残債免除」などの条件を曖昧にせず明記することが大切です。
また、相手のサービサーが正規の業者か確認することも必須。通知や契約書に記載された会社名や所在地、法務大臣の認可番号をチェックしましょう。
不審な点がある場合は、自己判断に頼らず、消費者生活センターや金融庁の相談窓口に確認することをおすすめします。
残債が支払えないときの3つの選択肢

任意売却後に残債が残り、返済が難しい場合は、法的手続きや私的整理で負担軽減を図る方法があります。代表的な選択肢は以下の3つです。
1.任意整理
任意整理は、裁判所を通さずに債権者と直接交渉し、将来利息を免除してもらい元本のみを分割返済する手続きです。返済期間は3~5年程度で、弁護士や司法書士が代理人となることで交渉がスムーズに進みます。手続き中は取り立てが止まり、精神的負担が軽くなる点も特徴です。
ただし、任意整理は債権者の同意があって初めて成立するため、必ずしも成功するとは限りません。将来利息のカットは交渉目標であり、結果は債権者によって異なり、一部利息の支払いを求められることもあります。
費用は債権者数や残債額により変動し、一般的に債権者1社あたりに着手金(例:2万~5万円)、和解成立時に解決報酬金、減額された額に応じて減額報酬金(例:減額分の10%)などが発生します。
2.個人再生
個人再生は、裁判所を通じて借金を大幅に減額する制度です。債務総額に応じて1/5~1/10程度に圧縮される可能性がありますが、法律で定められた最低弁済額の基準があり、また清算価値(保有資産の評価額)や可処分所得(給与所得者等再生の場合)を下回ることはできません。安定した収入がある人を対象に、返済期間は基本3年、最長5年まで延長可能です。
住宅ローン特則を使えば、一定の条件(例:住宅ローン以外の抵当権が設定されていない、再生債務者自身が所有し居住している住宅である、保証会社による代位弁済から6ヶ月以内に申し立てるなど)を満たせば、自宅を手放さずに他の債務だけを圧縮できます。
3.自己破産
自己破産は、返済不能と裁判所に認められると、税金や養育費、罰金などの一部の非免責債権を除き、原則としてすべての債務が免除される手続きです。
財産については、99万円以下の現金は自由財産として手元に残すことができ、預貯金や保険解約返戻金、自動車などの個別の財産はその評価額が20万円を超える場合に処分の対象となるのが一般的です(裁判所の運用により異なる場合があります)。
生活必需品は差し押さえ禁止財産として保護され、裁判所の許可を得て自由財産の範囲を拡張できる場合もあります。
手続きには、主に「同時廃止」と「管財事件」の2種類があり、どちらになるかは裁判所が判断します。同時廃止は財産がない場合に取られ、比較的簡易で費用も抑えられます。管財事件は一定以上の財産がある場合や免責不許可事由の調査が必要な場合などで、破産管財人が選任され、費用も高額になります。
任意売却後の残債は交渉次第で将来が変わる
任意売却後に残った債務(残債)は、そのまま返済し続けるだけでなく、交渉によって条件を見直すことが可能です。例えば、一括払いを提示して元本を削減してもらう、月々の支払額を抑えた長期の分割返済に切り替えるなどの選択肢があります。
重要なのは、金融機関やサービサーとの交渉内容を必ず文書化すること。トラブル回避の基本です。また、自身の収支に合った返済計画を立てるためにも、早めに弁護士や司法書士などの専門家へ相談するのが生活再建の近道です。
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