離婚時の住宅ローン支払い義務は財産分与によってどうなる?
目次
「離婚したいのに住宅ローンがまだ残っているんだけど、どっちが返済を続けることになるの?」
マイホームを保有していて、かつ離婚を検討している夫婦のなかには、このような疑問や悩みを抱えている人もいるのではないでしょうか。
本記事では、離婚時の住宅ローンの取扱いや、離婚前に確認すべきことについて解説します。また、あわせて住宅を手放すべきかどうか、その判断基準についても触れているため参考にしてみてください。
離婚時の住宅ローン返済義務は財産分与後どちらが負担する?
離婚時の財産分与後に、住宅ローン返済義務を夫婦どちらが負担すべきかは、ケースバイケースです。また、それぞれの対策方法も複雑です。以下の見出しでは、各ケースについて解説します。
原則家の名義人が負う
住宅ローンの返済は、離婚後も原則家の名義人が負い続けます。名義人と住み続ける人が一致している場合は特に問題ありませんが、一致していない場合は複雑な対応が必要となります。
例えば、家の名義は夫であるものの、妻が住み続ける場合がこのパターンに該当します。このような場合は、夫が引き続きローンを返済するのが通常です。しかし後に夫がローンを支払わなくなり、結果として妻が住んでいる家が競売にかけられ、強制退去させられることになるなどのリスクがあります。
上記のリスクを防ぐためには、住宅ローンの名義を妻に変更する必要がありますが、条件が難しいため現実的ではありません。そのため、夫に養育費の代わりに住宅ローン返済を続けさせたり、あるいは「妻が夫に家賃として毎月支払う」という形式をとったりすることになるでしょう。
2人で分担して返済することもできる
夫婦双方の合意があれば、どちらが返済義務を負うべきかによらず、2人で分担して返済し続けることもできます。
2人で返済を続けるメリットには、家に住んでいないほうが返済を滞納することで自宅を競売にかけられるリスクを抑えられる点です。また、養育費や財産分与の内容も柔軟に決めやすくなることもメリットです。
ただし2人で分担してローン返済を続けていくためには、双方に安定した資力がなければなりません。実現できるかどうか不安な場合は、金融機関やFPなどに相談してみるとよいでしょう。
一方が連帯保証人の場合は継続して相手の保証義務を負う
住宅ローンを組む際、配偶者が連帯保証人となるケースがあります。では、離婚によって連帯保証義務を免れるかについてですが、それは不可能です。それは、夫婦間での合意があった場合でも同様です。
配偶者が連帯保証人から外れるためには、金融機関と交渉したうえで同意を得る必要があります。
金融機関次第では許可を貰える可能性がありますが、基本的には難しいです。また配偶者を連帯保証人から外す際は、新しい保証人を見つけたり、保証協会を利用したりするという条件が求められることが一般的です。
ペアローンの場合はお互いに債務と保証義務を負う
ペアローンを組んでいる場合、お互いが債務と連帯保証義務を負っていることになります。
そしてペアローンの場合は、夫婦両者において「自宅に住むこと」が要件とされているため、離婚によって家から離れる場合はローンの解約が求められる可能性があります。
ペアローンを解約される場合、金利の高いローンへ変更することになったり、残債の一括返済を求められたりするため、金銭的には厳しくなるでしょう。
離婚したいけれど住宅ローンがある場合に確認すべき項目
住宅ローンが残っている場合、離婚前に確認すべきことは、以下のとおりです。
● 家の名義人
● 現在の債務者および保証人
● 家のローンの残債
● 持ち家の現在価値
以下の見出しでは、上記それぞれの項目について解説します。
1.家の名義人
家の名義人と住み続ける人が一致している場合は問題ありませんが、一致していない場合は相手に連絡を取らなければ処理を進められなくなるなど、後に面倒なことになる恐れがあります。そのため、家の名義人は離婚前に確認しましょう。
家の名義人は、法務局で登記簿謄本(登記事項証明書)を取得すればわかります。法務局へ足を運ぶのが難しい場合は、オンラインでの登記簿謄本の交付請求も可能です。また、購入時から変更していなければ、売買契約書等の書類でも確認できます。
2.現在の債務者および保証人
現在の債務者および保証人を把握できていないと、後に夫婦のどちらがローン返済負担義務を負うのかわからなくなってしまいます。
したがって、住宅ローン契約書やその他書類一式を参照して、現在の債務者と保証人を確認しましょう。
3.家のローンの残債
家のローン残債は、離婚前に必ず確認する必要があります。なぜなら、残債の額によって片方が家に住み続けるか、売却して2人とも今の家から離れるか判断することになるためです。残債を調べる方法は、3つあります。
1つ目は、金融機関のWebサイトで確認する方法です。インターネットバンキングや、借入金融機関のインターネットサービスに加入していることが必要ですが、Web状で手軽に残債を確認できます。ただし金融機関によっては、Webサイトでの残債確認ができないことがあります。
2つ目は、残高証明書で確認する方法です。残高証明書は、金融機関から毎年送ってもらう書類です。ただし送付してもらえるのは、住宅ローンの契約時に残高証明書の郵送料を金融機関に預けている場合のみです。
残高証明書を紛失している場合は、金融機関に再発行を依頼しましょう。その際に必要な書類や持ち物は、問い合わせ時に確認すれば問題ありません。
3つ目は、返済予定表を確認する方法です。返済予定表とは、金融機関から郵送されてくる書類で、以下の項目が記載されています。
● ローン残債
● 借入内容
● 返済予定日
● ボーナス返済分
● 元金や利息などの内訳
ローン返済表を紛失している場合は、残高証明書と同様に金融機関へ再発行を依頼しましょう。必要な持ち物は金融機関によって異なるため、再発行依頼時にあわせて確認するとよいです。
4.持ち家の現在価値
持ち家の現在価値も、ローンの残債と同様に、現在の家を売却すべきか判断するのに必要な情報です。売却によってローンを完済できたり、希望価格に近い価値があったりする場合は、売却を検討することになるでしょう。
そもそも、売却時に住宅ローンを完済できないと抵当権を外せず、売却が成立しないため今の家の夫婦いずれかが住み続けるしかありません。
持ち家の現在価値は、不動産業者に査定依頼して把握しましょう。ただし査定価格は、不動産業者によって数百万円程度の差がつくこともよくあるため、複数社に査定依頼するのが望ましいです。
離婚時の住宅ローンに関するFAQ
最後に、離婚時の住宅ローンに関してよくある質問に回答します。
オーバーローン・アンダーローンの場合で対処方法は異なる?
オーバーローンとは、自宅の売却代金だけではローンを完済できない状態のことです。一方でアンダーローンとは、自宅の売却代金でローンを完済できる状態のことを指します。
オーバーローンとアンダーローンの場合で、離婚後の家の処分方法が異なるため、それぞれのパターンについて解説します
オーバーローンの場合
オーバーローンの場合は、自宅売却後もローンが残ることになるため、離婚後も支払いを継続しなければなりません。また、自宅売却時点でローン完済できなければ抵当権を外せないため、買手はつかないでしょう。そのため、基本的には家を売却せず、夫婦のいずれかが住み続けてローンの返済を続けることになります。
しかし、オーバーローンの状態でも自宅を売却できる方法があります。それは「任意売却」です。
任意売却とは、金融機関や配偶者の同意をもとに、抵当権を解除して自宅を売却することです。抵当権を外せる任意売却であれば買手がつくため、オーバーローン状態でかつ今の家を残すのが嫌な場合に役立ちます。
また任意売却では、金融機関からの同意を得る際に、今後の返済計画についても見直されることが通常です。そのため、任意売却後に残ったローンの返済も、比較的無理なく進められます。
このようにメリットの多い任意売却ですが、すべての金融機関が対応しているわけではありません。ローン貸付元の金融機関が任意売却に対応していない場合は、任意売却専門の業者などに依頼し、任意売却の交渉を手伝ってもらいましょう。
それでも上手く行かない場合は、通常どおり夫婦の一方が今の自宅に住み続け、ローンの返済を進めていくことになります。
アンダーローンの場合
アンダーローンの場合、家を売却することでローンを完済できるため、ローン返済義務に関する問題からは解放されます。しかし、問題となるのが売却益の扱いです。
住宅自体は財産分与の対象とならないのに対して、住宅の売却益は対象となるため、分配比率でトラブルを起こさないよう注意する必要があります。
ただし、原則は夫婦2人で半分ずつ分割することになっています。それでも双方が納得できない場合は、養育費の金額を調整するなどほかの方法で対処するのが適切でしょう。
またアンダーローンの場合でも、自宅を売却せずに住み続けることができます。この場合は、家を手放す配偶者に財産分与としていくら渡すべきかが争点となり得ます。
家の名義変更はどうなる?
離婚後の家の名義変更は、原則住宅ローンを完済しないとできません。しかし実際には、自身が家に住み続けるものの名義は配偶者であるというケースでは、後に家が配偶者の財産として扱われてトラブルに発展する恐れがあります。
そのため、離婚の際は「住宅ローン完済後は家の名義を妻のものに変更する」というように、名義変更について明確に取り決めておきましょう。
まとめ
前提として、住宅自体は財産分与の対象となりません。そのため、離婚時の住宅ローン支払い義務をどちらが負うべきかという問題が発生しますが、結論はケースバイケースです。また、住宅ローンの残債や自宅の査定価格によっても取るべき対応が変わってくるため、離婚時の自宅の扱いは慎重に行う必要があります。
記事の監修者:松浦 建二
CFP®認定者・ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 青山学院大学卒、ミサワホームで戸建てやアパートの営業を経験後、アイエヌジー(現エヌエヌ)生命保険へ転職し生命保険と投資信託の営業を経験。 2002年にファイナンシャルプランナーとして独立し、主に個人のライフプランや生命保険設計、住宅購入総合サポート等の相談業務を行っているほか、FPに関する執筆や講演も多数行っている。 オールアバウトマネーガイド。青山学院大学非常勤講師。 |