任意売却のメリット・デメリットや競売との違いをわかりやすく解説
住宅ローンの支払いができなくなった場合の選択肢に任意売却があります。
任意売却には、市場相場に近い価格で売却できるなどのメリットがあり、競売を避ける手段として選択されるのが一般的です。
とはいえ、任意売却にどのようなメリットやデメリットがあるのか分からないという方も多いでしょう。この記事では、任意売却と通常売却・競売との違いやメリット・デメリットを分かりやすく解説します。
目次
任意売却とは競売を避けるために行う売却方法のこと
任意売却とは、住宅ローンの返済ができなくなった際に金融機関の許可を得て家を売却する方法です。
住宅ローンの返済は、20年・30年と長期に渡り続くため、途中でどのような事態が起こるか予測できません。その期間に転職や退職で収入が減少する可能性もゼロではないでしょう。
新型コロナウイルスの影響のように予測もできない景気悪化で収入が途絶える可能性もあります。住宅ローンの返済が厳しい・これ以上できないという場合、担保となっている家を売却してローン残債を完済する手段が考えられます。
しかし、家に抵当権が設定されている場合、抵当権を抹消しなくては売却は出来ません。抵当権を抹消するには住宅ローンの完済が必須となりますが、売却額が住宅ローンを下回り補填する資産もないとなれば抵当権は抹消できず売却もできなくなるのです。
家を売却できずローンの返済も滞るとなると、最終的には抵当権を行使され家は競売にかけられます。その一歩手前で選択できる方法が、任意売却です。
任意売却であれば、金融機関の許可を得ることで住宅ローンが完済できない家を売却できます。
任意売却と通常の売却の違い
任意売却と通常の売却の大きな違いは、次の2点です。
・売却の際の金融機関の許可の必要性
・売却価格の決定権
通常の売却とは、家の所有者である売主の意志で売却する方法です。転勤や快適な家への住み替え・資金調達など売却の理由はさまざまありますが、どのような理由でも所有者の意志で自由に売却を進められます。
一方、任意売却は売却する際に金融機関の許可が必要です。任意売却を選択する際には、住宅ローンの返済が滞っている・住宅ローン残債が完済できないという状態であり、抵当権は設定されたままです。そのため、抵当権を設定している金融機関の許可がなければ売却できません。
また、通常の売却であれば、いくらで売却するかは売主で決めることが可能です。しかし、任意売却での売却価格は金融機関に決定権があります。金融機関としては、売却額によってローン残債の回収額が変わってきます。
あまりに安値で売却されてしまうとローン残債を回収できない恐れもあるので、売却額に条件が設けられるのが一般的です。
任意売却と競売の違い
任意売却と競売の大きな違いは、下記の通りです。
・任意売却は金融機関の許可を得て市場で売却する
・競売は裁判所の手続きで強制的に売却される
競売とは、住宅ローンなどの借入金が返済できない場合、担保として設定している家などを強制的に売却して残債を回収する方法です。回収が困難と判断した債権者が裁判所に申し立てることで、裁判所が手続きを進めて売却します。
競売になると、売却額や時期など所有者の意志は一切反映されません。
それに対し、任意売却は金融機関の許可は必要ですが、許可を得た後は不動産会社で通常の売却と同様の手順で売却を進められます。売却額の決定権は金融機関が持っていますが、売却時期や売却額で引っ越し費用を捻出するなどは比較的柔軟に対応してもらえます。
そのため、競売を避けるための手段として任意売却を選択するのが一般的です。
任意売却を選択する人のよくある理由
任意売却を選択する主な理由は、経済的な理由がほとんどです。とはいえ、どのようなケースで任意売却が選択されているのか分からないという方もいるでしょう。
任意売却を選択するよくある理由は、下記の通りです。
・収入減少で住宅ローンの返済ができなくなった
・ペアローンで借入れていたけど出産・育児で収入が減少した
・借り換えや住宅ローン特則で返済期間・返済額の見直しができない
・離婚の際に家を処分したいが住宅ローンが完済できない
任意売却を選ぶケースは基本的に「住宅ローンの返済が厳しい」「売却してもローン残債を完済できない」という条件がそろっているケースです。返済が厳しくなる要因としては、転職やリストラ・景気悪化・病気などの収入減少やもともと返済額の設定が収入に見合っていないなどが挙げられます。
返済が厳しい場合でも、住宅ローンの借り換えや住宅ローン特則を利用して返済計画を見直しする方法も選択できますが、条件的にそれらが利用できないケースも珍しくありません。
上記のような理由で住宅ローンの返済が厳しくなった場合でも、売却額でローンを完済できる・売却額+自己資金の補填で完済できる状態であれば、通常の売却を進められます。
しかし、売却してもローン残債を完済できる見込みがないという場合の選択肢が任意売却です。
任意売却のメリット
ここでは、任意売却のメリットをみていきましょう。任意売却のメリットとしては、下記の6つが挙げられます。
・自己破産を回避できる
・市場相場に近い金額で売却できる
・買主との交渉次第で好条件の売却ができる
・住宅ローン残債は分割返済できる
・物件を手放すことを周囲に知られない
・売却にかかる費用を売却価格でまかなえる
自己破産を回避できる
競売が行われたからといって住宅ローンの返済義務がなくなるわけではありません。競売の売却額で住宅ローンを完済できない場合、残債の返済義務は残り、基本的に一括返済が要求されます。
売却後のローン残債が返済できない場合、最終的には自己破産を選択せざるを得なくなるでしょう。とくに、競売は市場価格よりも安値での売却になるのでローンが完済できない可能性が高くなります。
任意売却であっても、売却後にローン残債があれば返済義務は残ります。しかし、任意売却は一般的に競売よりも高値で売却できるので、ローン残債が競売よりも少なくなりやすいものです。また、任意売却後の返済額は金融機関と相談して分割で支払えるので、返済の負担も抑えることができます。
そのため、競売で売却するよりも自己破産を回避しやすいというメリットがあるのです。
自己破産すると返済の義務は免れますが、財産を処分される・一定の職業に付けない・周囲に自己破産が知られるなどの生活していくうえで大きなデメリットがあります。
自己破産を回避できる任意売却のメリットは、大きいと言えるでしょう。
市場相場に近い金額で売却できる
任意売却は、基本的に通常の売却同様に売却を進めるので、市場相場に近い金額で売却できるというメリットがあります。
一方、競売は市場価格の6~7割ほどの価格での売却となるのが一般的です。売却額が高いほど、売却後のローン残債の額を減らせられ、完済を目指しやすくなるでしょう。
とくに、立地が良い・状態が良いなど条件の良い家であれば高値での売却も期待できるので、任意売却を検討することをおすすめします。
買主との交渉次第で好条件の売却ができる
任意売却であれば、金融機関の条件の範囲内であれば売却条件を買主と相談して決めることができます。売却額だけでなく契約条件や引っ越し日など相談して決められるので、学校や仕事などのスケジュールを考慮した引き渡しも可能です。
また、任意売却は買主を選ぶこともできます。
親族や投資家などが買主になることで、売却後も家賃を支払って自分の家にそのまま住める可能性も残せます。
競売の場合、売却スケジュールや条件は裁判所が決めるため売主の都合は反映されます。親族に入札に参加してもらい落札できる可能性もありますが、落札である以上確実に親族が落札できる保証もないでしょう。
住宅ローン残債は分割返済できる
任意売却の売却額だけで完済できない住宅ローンの返済義務は残ります。一般的に、返済が滞った後の残債は一括返済が基本です。
しかし、任意売却の場合、売却後の残債の返済方法は金融機関と相談して決めることができます。収入や生活状況などを踏まえて現実的な返済計画になるのが一般的であり、残債の分割払いも可能です。
任意売却後の残債が返済できないと、自己破産になる恐れもあります。
その点、分割払いなど返済計画を立て直しできる任意売却なら、無理のない返済計画で完済を目指しやすいでしょう。
物件を手放すことを周囲に知られない
競売になると、裁判所の執行員が家に調査に来たり、競売情報がインターネットなどに掲載されたりするので、競売の事実が周囲に知られやすいというデメリットもあります。
任意売却であれば、通常の不動産売却同様に売却を進められるので、仮に売却することは知られたとしてもローンの滞納までを周囲に知られることはないでしょう。チラシを近所には配布しないなどプライバシーに配慮して売却活動を進めることもできるので、売却自体を知られずに売却手続きを進めることも可能です。
売却にかかる費用を売却価格でまかなえる
通常、不動産売却には仲介手数料や印紙税など諸費用が必要です。
一般的には自己資金で対応しますが、任意売却の場合は売却額から差し引くことができます。
任意売却を検討する段階では、売却にかかる資金の捻出が難しいケースも少なくありません。
その点、任意売却であれば自己資金がなくても売却ができるので、経済的な負担を軽減ができるのは大きなメリットといるでしょう。さらに、金融機関との交渉によっては引っ越し費用や税金の滞納分などを売却額から捻出することも可能です。
競売の場合も売却代金から諸費用を差し引くことができますが、引っ越し費用などは捻出できません。
任意売却のデメリット・リスク
任意売却にはデメリット・リスクもあるので、慎重に検討することが大切です。
任意売却のデメリット・リスクには、下記の4つが挙げられます。
・ブラックリストに名前が掲載されてしまう
・金融機関の判断で売却できない場合がある
・一定の期間を過ぎると競売にかけられる
・住宅ローンの保証人に負担をかける可能性がある
それぞれ詳しくみていきましょう。
ブラックリストに名前が掲載されてしまう
ブラックリストとは、個人信用情報に事故情報が登録された状態のことをいいます。個人信用情報とは、クレジットカードや借入金など個人のお金の情報のことです。
クレジットカードの作成や新しくローンを組む場合など、必ず信用情報が確認されて可否を審査されます。そのため、この信用情報に延滞や自己破産と言った事故情報が記録されていると、ローンを組むなどができなくなります。
任意売却する時点で、住宅ローンの延滞が発生しているのでブラックリスト状態です。一定期間はクレジットカードを作成したりローンを組んだりできなくなるので、注意しましょう。
ただし、事故情報はずっと掲載されるわけではありません。
信用情報機関にもよりますが、5~10年で情報は抹消されるので抹消後はクレジットカードの作成などは可能です。また、金融機関などによってはブラックリストであっても融資してくれるケースもあります。
任意売却後に借入したいなどの場合は、一定期間を待つか、審査に通る金融機関を探すようにしましょう。
金融機関の判断で売却できない場合がある
金融機関は必ずしも任意売却に許可を出すわけではありません。
次のようなケースでは、任意売却の許可が出ない場合があります。
・住宅ローンの滞納が1~2回しかない
・査定額がローン残債を大きく下回る
・競売の方がローンを回収できる見込みがある
・信頼関係が破綻している
一般的に、住宅ローンの返済が半年ほど滞納してから任意売却が認められるケースが多いでしょう。1~2回の滞納では、任意売却を許可してもらえない可能性が高いので注意が必要です。
そのような場合は、金融機関と相談して返済計画を見直すなど対策するようにしましょう。また、任意売却の目的は住宅ローン残債の回収です。
売却額が低いなど回収ができないと判断されると任意売却の許可が出ない恐れがあります。住宅ローン審査の際に虚偽の報告があったなど、金融機関との信頼関係が破綻している場合も任意売却が難しいでしょう。
任意売却の許可が得られなければ、競売することになります。
金融機関に任意売却を交渉する際には、返済できない理由など誠意をもって説明しで許可を得られるようにしましょう。
一定の期間を過ぎると競売にかけられる
任意売却ができる期間は、競売開札日の前日までです。その期日を超えて競売が開始されてしまうと、任意売却できません。
一般的に、住宅ローン滞納から競売の開札までは1年~1年半ほどしか時間がありません。一方、一般的な不動産売却は3か月~半年ほど時間がかかります。任意売却は金融機関との交渉も必要なのでそれ以上の時間が必要でしょう。
さらに、条件の悪い物件であれば、売却までにより時間がかかります。
任意売却は、いつまでも時間をかけて売却活動ができるわけではありません。
期限内に売却を完了できるように、少しでも早く任意売却の手続きを進めていくことが大切です。
住宅ローンの保証人に負担をかける可能性がある
住宅ローンを組む際に連帯保証人を立てている場合は、連帯保証人に負担がある点には注意が必要です。連帯保証人は、契約者の返済が滞った場合の住宅ローンの返済の義務を負います。そのため、住宅ローンの返済が滞って任意売却を検討する段階では、連帯保証人に返済請求が来ている可能性は高いでしょう。
連帯保証人も返済できないとなった場合で、ようやく金融機関は任意売却を検討してくれるのが一般的です。
また、任意売却してローン残債が残った場合も連帯保証人は返済義務を負うので負担がかかる可能性があります。とはいえ、競売になると保証人の負担もより大きくなる可能性があるものです。
早い段階で連帯保証人にも相談し同意を得たうえで、任意売却に進むことをおすすめします。
一般的な任意売却の流れ
最後に、任意売却の流れを見ていきましょう。一般的な任意売却の流れは、次の通りです。
① 任意売却の必要性を検討する
② 不動産査定
③ 金融機関との交渉
④ 売却活動スタート
⑤ 売買契約
⑥ 決済と引き渡し
⑦ 返済計画の立て直し
基本的な売却の流れは通常の不動産売却と大きく変わりません。金融機関から督促がきたなど返済が厳しくなったタイミングで滞納状況や残債を詳しく把握して、任意売却の必要性を検討しましょう。
そのうえで、任意売却が必要と判断したら不動産査定を受けます。任意売却は出来るだけ早く・高く売ることが重要になるので、不動産会社選ぶは慎重に行うことが大切です。査定依頼する際には、任意売却を検討している旨を伝えるだけでなく任意売却に強い不動産会社を選ぶようにしましょう。
査定後、金融機関と任意売却の交渉を行います。任意売却の許可が得られれば、不動産会社と売却を進めていきます。売却活動中も、金融機関には小まめに状況の報告を行うようにしましょう。
また、売却後にローン残債が残る場合の返済方法についても、金融機関と相談して返済計画を立てていくことになります。
任意売却を成立させるには専門家に相談を
任意売却であれば、市場価格で売却が期待できスケジュールや費用などにも柔軟な対応が可能です。しかし、任意売却は期限が短く・連帯保証人に迷惑をかける恐れがあるなど注意すべき点もいくつかあります。
金融機関との交渉も必要になるので、任意売却を検討するなら少しでも早く専門家に相談することをおすすめします。
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